鍬ヶ崎上町雑貨商萬覚書帖
大正時代、鍬ヶ崎上町で雑貨商を営んでいたある商店の大福帳とともに見つかった「萬覚書帖」という文書がある。これは当時その商店で取り扱っていた品物の小売価格を記載したもので、ここから当時の物価が見えてくる。当時上町には鍬ヶ崎の料亭、料理屋のなかでも最大の規模と歴史を持つ「料亭・相馬屋」の隣に「沼崎商店」という雑貨屋があったという。ここで掲載する萬覚書帖が沼崎商店のものなのか、別の商店のものなのかは不明だが、上町の雑貨屋は芸妓たちのニーズに応え衣料品や化粧品、洋傘、帽子なども多く取り揃えており、宮古町の雑貨屋に比べ流行にもかなり敏感だったという。また、雑貨屋は上町が夜遅くまで賑やかだったため営業時間は深夜にまで及んだ。
萬覚書帖に掲載される商品のなかでもカタカナ表記になっているものは、当時の流行品であり、男性整髪料のポマードなとは、当時まさに高嶺の花だったようだ。薬品系の品物は不可解な名称の商品が多いが、六神丸などは現在も同名のものが流通する商品だ。当時の宮古における経済尺度は、牛肉一斤が6円、石けん18銭、賃金は女性が一日70銭。また、当時の鍬ヶ崎には人力車が15台、客自動車1台、電話20台があった。
日用品
品 名 |
売価 |
品 名 |
売 価 |
品 名 |
売 価 |
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提灯 | 20銭 |
がま口 | 50銭 |
マスク | 25銭 |
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扇子 | 20銭 |
桃マッチ | 9銭 |
消火器 | 20銭 |
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通い帳 | 18銭 |
棒石けん | 25銭 |
へちま | 4銭 |
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御守り入れ | 35銭 |
おもて紙 | 4銭 |
子供ゴム靴 | 75銭 |
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束髪櫛 | 20銭 |
ミツワ石けん | 33銭 |
雨傘 | 1円 10銭 |
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ハンカチ | 10銭 |
蛇の目傘 | 2円50銭 |
糸入れ | 55銭 |
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クラブ歯磨き | 17銭 |
アルボース石けん | 25銭 |
針 | 35銭 |
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模造紙 | 12銭 |
朝日紙 | 10銭 |
ゴムヘチマ | 50銭 |
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スキ毛 | 5銭 |
ニコニコ半紙 | 5銭 |
バケツ | 18銭 |
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キ発油 | 60銭 |
毛ヨージ | 18銭 |
牡丹刷毛 | 65銭 |
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アース付髷 | 1円20銭 |
サル又 | 35銭 |
ゾーロ | 13銭 |
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唐半紙(10帖)
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50銭 |
洋半紙(1帖) | 4銭 |
石けん入れ | 35銭 |
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傘 | 1円60銭 |
横かもじ | 1円80銭 |
鏡 | 40銭 |
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ビンカキ | 22銭 |
開明墨 | 10銭 |
障子紙 | 26銭 |
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子供傘 | 80銭 |
四季の花 | 40銭 |
インキ | 30銭 |
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蛇の目傘 | 90銭 |
ペン先 | 2銭 |
アルボース石けん(大) | 50銭 |
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巻紙 | 10銭 |
麻裏(足) | 58銭 |
花王石けん | 18銭 |
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大ローソク | 8銭 |
前髪立てタオル | 28銭 |
洗い石けん | 6銭 |
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ゴム裏ゾーリ | 4円 |
田保止め | 6銭 |
ゴム櫛 | 36銭 |
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時計紐 | 45銭 |
万年筆 | 2円 |
ビン止め | 18銭 |
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桜紙(5帖) | 40銭 |
花かんざし | 1円50銭 |
スキ毛(2つ) | 4銭 |
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髷形代 | 27銭 |
スキ櫛 | 3銭 |
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※同名の品物があるが個数メーカー違いであろう。ビンカキは栓抜きのこと。ゾーロはじょうろのこと。髪の手入れに関係する品物が多いのが特徴
玩 具 |
化粧品 |
衣 料 |
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品名 | 売価 |
品名 | 売価 |
品名 | 売価 |
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ゴム人形 | 10銭 |
レート水白粉 | 25銭 |
ショール | 2円 |
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紙石盤 | 7銭 |
クラブポマード | 3円 |
ハオリ紐 | 4円 |
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自動車 | 40銭 |
レートクリーム(中) | 45銭 |
寿の毛糸腰巻き | 4円50銭 |
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豆鈴 | 1銭 |
スミレ香水 | 35銭 |
オコシ | 30銭 |
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セル風車 | 40銭 |
オリジナルポマード | 1円 |
朱子足袋 | 92銭 |
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軍刀 | 20銭 |
金鶴香水 | 90銭 |
メリヤス手袋 | 50銭 |
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羊刀 | 20銭 |
スミレ白粉 | 20銭 |
都腰巻き | 4円50銭 |
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電気花火 | 10銭 |
ベニ | 12銭 |
ラクダ首巻き | 4円50銭 |
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象牙駒(将棋) | 85銭 |
御園クリーム | 55銭 |
短靴下 | 30銭 |
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カチューシャ人形 | 15銭 |
花椿油 | 45銭 |
タオル | 18銭 |
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※セル風車は当時、素材として爆発的にヒットしたセルロイド製の風車。セルロイドは分子構造に酸素をもつため低温で発火しやすく現在は製造されていない | ※現在の化粧品に比べれば貧弱だが、花街の雑貨屋らしく化粧品は豊富に揃っていたようだ。男性整髪料のポマードがかなり高価。この頃商品として発売されたばかりだったのかもしれない | ※覚え書きを記したのが冬期だったのか、下着類や防寒衣料が多いようだ。記載に洋風の下着類がないことからこの頃、まだ女性は着物が主流だったことがうかがえる |
薬 品
品名 | 売 価 |
品名 | 売 価 |
品名 | 売 価 |
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気転丸 | 30銭 |
鉛軟膏 | 10銭 |
二色膏 | 10銭 |
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大学目薬 | 20銭 |
敬震丹 | 20銭 |
ホーカー液 | 55銭 |
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毒掃丸 | 1円 |
今治水 | 20銭 |
毛生え薬 | 2円20銭 |
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安神散 | 4銭 |
仁丹 | 20銭 |
浅田飴 | 30銭 |
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応用歯薬 | 20銭 |
中将湯 | 2円 |
淋病洗浄薬 | 35銭 |
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龍角散 | 50銭 |
脱脂綿 | 55銭 |
五臓圓 | 50銭 |
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ネッスルミルク | 60銭 |
童丸 | 50銭 |
健康 | 20銭 |
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も草 | 3銭 |
六神丸 | 1円 |
胃散 | 20銭 |
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宝丹 | 20銭 |
命の母 | 25銭 |
ビックリ丸 | 20銭 |
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快通丸 | 10銭 |
ラヂーム(1本) | 25銭 |
頭痛膏(2枚) | 6銭 |
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守妙脈出し | 50銭 |
解熱薬 | 5銭 |
※不可解な品名の薬に混じり、お馴染みの浅田飴や仁丹などがある。ラヂームはラジュームのこと。頭痛膏は額の両側に貼る絆創膏のような貼り薬。毛生え薬は永遠の薬。特殊なニーズしかないため売価も高い
食品・酒類
品 名 | 売 価 |
品 名 | 売 価 |
品 名 | 売 価 | ||
片栗粉 | 13銭 |
鴨鶴(酒) | 2円50銭 |
焼酎(小) | 35銭 | ||
鮭 | 55銭 |
バナナ | 50銭 |
鮑 | 50銭 | ||
玉泉(酒) | 5円50銭 |
ブドウ飴 | 10銭 |
宮古川正宗(酒) | 55銭 | ||
パイン | 75銭 |
冷や麦 | 15銭 |
酢 | 25銭 | ||
奈良漬け | 15銭 |
ウヰスキー | 28銭 |
サイダー | 25銭 | ||
松正宗(酒) | 6円 |
白酒 | 60銭 |
ビール(2本) | 96銭 | ||
赤砂糖 | 60銭 |
しょう油(1升) | 85銭 |
松茸菓子 | 20銭 | ||
茶 | 35銭 |
ソーメン(15束) | 60銭 |
生ふ | 2銭 | ||
福神漬け | 40銭 |
ミルク | 70銭 |
アジロラクガン | 50銭 | ||
ドロップ | 20銭 |
沢の鶴(酒) | 1円 |
白砂糖1斤袋代込 | 50銭 | ||
白砂糖半斤 | 25銭 |
※バナナと鮑の価格が同等。バナナやパインは相当な高級品であったことがわかる。宮古川正宗は現在の東屋が醸造していた地酒。価格が55銭になっているがおそらく4合びんであろう