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2008/06 ボンギリを研究する

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 陸前高田で居酒屋をやっている僕の知り合いは酒を浴びるほど飲むひげ面の豪傑だが「ギューツー/牛乳」を全く飲まない。その事をある野外宴会の時に問いただしてみたら、小学校の時の文化祭でしでかした「大」の「オヅヅミ/お漏らし」事件がトラウマになって「ハラクタリ」を誘発する「ハッケーギューツー/冷たい牛乳」には敏感になり、いつしか飲まなくなったのだという。その話を面白おかしく語ってくれた居酒屋マスターは、そのほかにも食事中には聞くに堪えないような下ネタ満載の逸話を話してくれ、焚き火を囲む一同は大いに腹を抱えて笑った。しかし、僕は糞便にまみれたその話の中で陸前高田ではうんこのことを「ボンコ」と呼ぶことに興味が湧いた。一通り話し終わってビールでノドを潤すマスターに「ボンコ」ってうんこのことですよね…と聞いてみると、高田ではうんこは「ボンコ」「オナゴ/女」のあそこは「○ンコ」男のは「チンコ」づーのさ。と教えて豪快に笑った。

 「ボンコ」「○ンコ」「チンコ」の最後に付けられた「コ」は「メンコイ/可愛い」物、愛しいものに対して追加される東北方言の特徴でもあるから、名称に対しての直接の意味には関係ない。「コ」を外すと「ボン」「○ン」「チン」となり、形状や意味が見えてくる、男の「チン」は珍しくてそれはそれは貴重な…というような意味だろう。女の「○ン」は「丸」からきている。ちなみに「丸」という漢字は女体を意味する「乙」を「刀」の「刃」で真っ二つにしたような象形だ。ここでは詳しく語らないがまさにアレを意味する伝統的なアノ形に通じる。そしてうんこを意味する「ボン」はというと、これも丸いという意味でありぼんぼりを意味する「ボンボツッコ」や赤ちゃんを意味する「ボンボ」の「ボン」に近い。しかしながら同じ丸を意味する女性器の「○ン」に対して「ボン」は球体を言い表しており「ボン」には中身というか質量が感じられる。  ここまでを理解していただいた上で宮古弁の「ボンギリ」について見てゆこう。宮古弁での「ボンギリ」は太くて固い棒状のうんこのことだ。陸前高田でいう「ボンコ」のように「コ」が付け加えられるような可愛さはなく、まさに生みの苦しみに「ケツポラ/肛門」が震えその余韻がある種の快感として残るような、潔い、別な例えならば男らしい渾身の一本、あるいは日本の「ビガビガヅー/立派で堂々とした」穀物主体の大便のことだ。ちなみに有名な民謡『五木の子守歌』の「ぼんぎり(盆きり・お盆だけの意味)」とはまったく意味が違うのだが、宮古人は昔から『五木の子守歌』を聞くと美空ひばりが歌おうが、氷川きよしが歌おうが「♪ボンギリ、ボーンギリ」と耳にすれば、太くて立派なうんこの佇まいを想像してしまうのは否めない。

 「ボンギリ」の「ボン」が「ボーコ/棒」だとする考え方もある。だとすると後半の「ギリ」は「切り」あたりが変化したとして、「ボンギリ」は「棒切り」になり、棒(おそらく木製)を「ダヅダヅド/適当な乱切り」切ったような大便ということになるが、これだと肛門周辺の筋肉で機械的に押し出し棒状に露出した物が自重で「モゲデ/ちぎれて」切られるような光景が思い浮かぶ。それを汲み取り式のトイレで本人が「マッタ/股ぐら」から見たときに偶然棒のように見えたのかも知れない。なにせ「ボンギリ」という大便の形容はトイレが水洗化する以前からあるわけだから現在のトイレ環境からでは本当の真意には到達しないのだ。また、ちょっと前までは現在のように手軽にトイレを使えるコンビニなどあるはずもないから「モヨーセバ/便意・尿意」その辺の「アウェーコ/路地・細道」や物陰、藪などで「コッコマッテ/しゃがんで」用を足すのはよくあることだった。ちなみに野山で「大」の方をやると頂上が「ケツタプ/お尻」に付くので、「コッコマッターマンマ/しゃがんだまま」ゆっくり前進するのが玄人なそうで、この動作が獲物に向かって鉄砲を持ち「スズガッコニ/静かに」藪を進む姿に似ていることから「キズウヅ/雉撃ち」と呼ばれる。「ドラ、キツコー、ブッテクッカナ」で「どれ、野ぐそしてくるかな」という意味になる。ちなみに僕も友人らとキャンプをしてトイレ施設のない野山の場合は翌朝メンバーそれぞれが好みの場所を探し露天で用を足す。コツは用を足す前に穴を掘る、または石や岩などを跨ぎ落下スペースを確保することだ。

 話を戻そう。「ボンギリ」の「ボン」が、陸前高田でうんこの意味で使われる「ボンコ」の「ボン」なら、「棒」とか「棒状」という形態を表す意味とは違ってくる。しかし「ボンギリ」の「ボン」が大便そのもだとすると、このテの話で宮古人の表現によく出てくる「ボンギリクソ」が不可解になる。「ボン」が大便なら直訳で「クソ(糞)・キリ(切り)・クソ(糞)」になるから何故かしっくりしない。また、「ボンギリ」は何かが折れるような状態で「ボンギライェード、オッカゲル/勢いよく折れる」とか「アソゴナッテガラ、ボンギラ、イッター/あそこから勢いよく折れた」などという大便とは別口な使われ方もする。こうなると「ボンギリ」の「ボン」の正体は、「棒」でもなく「うんこ」でもなく「ボンッ!!/BON!!」という擬音であり、勢いを表す装飾だということが判る。そう考えるとすなわち「ボンギリ」とされる大便は、排泄された佇まいも健康的で立派であることはもちろん、排泄される瞬間も堂々とした大便の中の大便、キング・オブ・大便ということになる。そして今回は触れなかったが「ボンギリ」に似ている「バンガリ」「ビンガリ」「ボンガリ」などの一群も擬音を含んだ表現だというのが見えてくる。 

懐かしい宮古風俗辞典

【やげのくさ】
触ったり、折ったりすると皮膚炎を起こすとされる有害な植物。

 かなり前の話だが田老の真崎海岸で都会から臨海学校に来ていた生徒たちがスイカ割りをやることになり、先生がその辺から「オッカイデ/折って」きた「ボーキ/棒」でやったはいいが、その棒が「ウルス/ウルシ」の木で全員が「ウルス」にかぶれたという。また、お盆の墓参りに連れて行った孫が「スーコ/おしっこ」がしたいというので草むらで「ヒケーデケダラバ/排泄を手伝ったら」運悪く「ツタウルス/ツタウルシ」の群生地で「ツンツコ/オチンチン」から「ウルス」にかぶれたり、最近であれば、犬の散歩をしながら草笛を吹いたら、なんと「ウルス」で帰宅後顔中に湿疹が出たという報告もある。宮古弁ではこのように湿疹やかぶれの症状を「ヤゲド/やけど」に例えて「ヤゲ」と呼び、「ヤゲ」を誘発するとされる植物を「ヤゲノクサ」としている。代表的なのは前述の「ウルス」だが、その他に茎を折ると「キーレー/黄色い」ツユがでる「ニタケグサ」昔は瘡の薬ともされた「クサノオウ」、近寄ると異臭がする「ヤゲノキ/正式名称不明」などがある。これらは毒もあるがそれを逆利用して便所の「タメキッツ/便漕」に入れて蛆殺しに使った。また、墓地などで春先に葉が茂り夏に枯れてから花芽を出すヒガンバナ科の「ナツズイセン」「キツネノカミソリ」なども地下茎などに毒があり昔からの教えで「ヤゲノクサ(毒草)」とされる。

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