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2013/10 レザーカットとMG5

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 中学2年の時に髪型に目覚めた。鏡を見ながらどの辺りから髪を分ければかっこいいのか毎日研究した。風呂に入れば髪を濡らして微妙な分け位置を試行錯誤したり髪を後ろへまとめリーゼントのようにしては自分と髪型に酔っていた。その結果、とにかく今は分け目うんぬんより髪を長くすることが先決なのだと結論に達し、世間の若者同様に僕の長髪時代がはじまった。

 流行には敏感で何でも先頭をきる友人のSは小学校5年ですでにMG5のヘアトニックとヘアリキットを使っていて、6年生の頃には七三に分けてポケットには櫛を携帯していた。しかし、オシャレに敏感なSではあったが悲しくも激しいフケ症でヘアリキットと垢で濡れた髪にはたくさんのフケがこびりついていた。彼曰く「ンダッテ/だって」毎日髪洗っていたら整髪料が「オヨバネーベーガ/もったいないだろ」と言うのだった。それもそのはずで当時は中学生が流行の男性化粧品を「バガバガド/景気よく」買えるほどお金をもっているはずはないのであった。

 それでも髪が伸びてくると静電気でホコリを「ヨバッテ/呼んで」「デンビサ/額に」髪が「ハッツーダリ/貼り付いたり」するので僕もとうとう整髪料をつけることにした。実はその当時、僕のオヤジは晩年ハゲてしまったがまだ髪がフサフサだったので幾種類もの化粧品を使っており洗面所の「セメケー/狭い」棚はオヤジ専用の化粧品で埋めつくされていた。愛用はリーゼント御用達の丹頂チックと緑色の柳屋ポマードで、整髪料としてはバイタリス(ライオン)MG5(資生堂)マンダム(丹頂)エロイカ(カネボウ)などがぎっしり並んでいた。その中で当時自分的に一番男心をくすぐるかっこいいボトルは黒と銀のチェック柄にロゴがあしらわれたMG5だった。キャップも大振りで開け閉め時のアクションもかっこいいし、テレビCMは長身でちょっとタレ目の草刈正雄がクールだった。そして次が映画『レッドサン』で三船敏郎、アランドロンとも共演したチャールズブロンソンがCMをやっていたマンダムであろう。あごを撫でながら「う~んマンダム」と呟くキメ文句は大いに流行って僕も真似していた。しかし、マンダムは男臭さを売りにしている割に意外と甘い女っぽい「カマリ/香り」だったので好きになれなかった。それではやはりMG5をつけるしかないのだが、オヤジと同じ香りが頭から漂うというのは抵抗があった。当時から僕は「人と違う」ということに異常なこだわりがあって、とにかく人と違うことをやっては喜んでいた。そんな精神構造だから同じ屋根の下でオヤジと同じ「カマリ」というのは死んでも耐えられなかった。そんなわけで自分用を「ヨオス、カイサイグ/よぉし、買いにいく」と決意し初の化粧品購入へと街へ出掛けた。

 化粧品を買うなんてまったく経験がないし、友人に聞くといってもこの分野で先駆者のSに聞くのはしゃくだ。何処へ行こうかと考えた末、宮町の国鉄物資部のマーケットに行ってみた。この店は宮古幼稚園の裏あたりにあった昭和臭満載の木造集合店舗で魚、野菜などの食料品から衣料品、靴、文房具まで多様な品揃えだった。その中にちょっとした化粧品を置いた店舗もあり少年でも抵抗なく化粧品を買える雰囲気だった。しかし、置かれていたのはやはりMG5が主でその他は見たこともないビンや名も知らないものだった。それでもあれこれ物色していたらレザーカットという髪を切る道具を「メッケーダ/発見した」その使用方法が書かれた図を見ると櫛のように髪を梳いて自由に髪が切れる…みたいなことが書いてある。おお、これはいい「トゴヤツン/散髪代」を親もらって自分で髪を切れば金が貯まるしその金で化粧品も買える。うん、これはきっと先行投資なんだ…。というわけでこのレザーカットなる道具を購入した。

 物資部を出ると化粧品はこんな集合店舗ではなく専門店で買うのだ。なぜかそんなことを思い中央通りの十字屋化粧品店へ向かった。この頃の十字屋は店舗の庇にトタンの看板があってそこへ独特のレトロな書体で十字屋と書かれていた。◎◎商店や○○商会などの名前が一般的な時代に十字屋なんてかっこいい店名だと思っていた。この店名が宗教的に十字架を意味していたことは大人になってから知ったのは言うまでもない。

 十字屋の店内は女性用化粧品の匂いが漂っていた。そして奥の棚にはお決まりのMG5シリーズが並んでいた。やはりこの時代はMG5全盛の時代であり世の中の男の化粧品は黒と銀のチェックなのである。と、諦めかけたその横に四角っぽい透明のボトルにブルーやグリーンの液体が入ったギャラックという化粧品を発見した。ああ、そうだ、MG5の姉妹品でたしかウルトラマンのイデ隊員役の二瓶正也がCMをしていた化粧品だ。うん、これなら周りで誰もつけてないから真似にはならない。という訳で資生堂ギャラック、ヘアリキット、ヘアトニックを購入して店を後にした。

 夜、風呂で昼間買ったレザーカットを試すことにした。鏡を見ながらザリザリと髪を梳いた。前髪、左右、後ろは見えないけれど適当に撫でた。その後、髪を洗って風呂上がりに買ってきた資生堂ギャラックのヘアトニックをつけた。さわやかないい香りがした。しかし、翌朝鏡を見て「プタマゲダ/びっくりした」髪は無残なとら刈りとなっていた。そこへヘアリキットをつけたがもう頭は悲惨な状態だった。学校でクラスのほぼ全員に笑われ一日中凹んだ。後日、レザーカットの使い方を聞いたら、基本的に自分で使うものではなく他人の髪を切ってあげる道具だったらしい。大人への階段はまだ遠い…そんな時代の思い出だ。

ためになる宮古弁風俗辞典

ぷたつける

叩く、殴る、殴りたおす。勢いをつけて物を叩く、あるいは喧嘩などで相手を殴ること。

ケンカで殴り合いになったり、手に負えない物を叩けば壊れることを承知して叩いたりするような行為を「プタツケル」という。また半濁点を削除した「フタツケル」でも同様の意味だ。言葉を分解すると「プタ」あるいは「フタ」と「ツケル」に分けられ前者は勢いや擬音を表し、後者が言葉の意味を含んでいる。「ツケル」は付ける、または衝けるであり「衝(つ・しょう)」は物体同志が激しく衝突した時の「ドカン!!」という衝撃音が字意となっており、まさしく暴力的に何かを叩きのめす意味が含まれている。ちょっと昔の宮古弁風小競り合いや高校などで上級生が下級生に対して凄む時など「プタツケッツォ/殴るぞこら」などとハッタリが幅をきかせていたが、最近では宮古も近代化が進み酒場などでの小競り合いでも「ウナァ、プタツケッツォー/てめぇこの殴るぞ」などと凄むシーンはかなり少なくなった。とは言え、実際は自分がそのような過激な環境からかなり離れており、それなりの場所では凄む時や相手に威圧を与える時に未だ使われているのかも知れない。暴力的で品のない言葉だが感情をも表現する忘れちゃならない宮古弁のひとつだ。

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