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2010/11 桐内寺平の月泉和尚の石碑順禮

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 先月号特集で小国地区の大圓寺と背後の中世の舘跡・大梵天舘に触れたが、特集内容の性格上詳しく紹介できなかったので今回は大圓寺を開山したという月泉良印の周辺と、最初に草庵を結んだ桐内寺平周辺の石碑を調べながら再検証してみようと思う。大圓寺を開いた月泉良印は南北朝期から室町にかけて活動した禅宗の僧だ。月泉は元応元年(1319)に奥州吉本(宮城県)に生まれ14歳で出家、塩釜の真言宗法連寺に入り、17歳に栃木県薬師寺(現廃寺)で戒壇し正式な僧となった。のち各地の寺で修行し23歳の時に曹洞宗大本山・総持寺(石川県輪島)に入り、貞治元年(北朝年号1362)に44歳で曹洞宗修行僧専門の寺として開山した正法寺(現奥州市)の一世・無低良韶(むていりょうじょう)の還化(死去)により同寺の二世として入った。

 正法寺は無低禅師が正平3年(南朝年号1348)に開山した寺で山号を、大梅拈華山円通(だいばいねんげさんえんつう)とし、越前の永平寺、能登の総持寺と並ぶ曹洞宗三大本寺であった。二世となった月泉は正法寺二世のまま各寺を開山し同時に開山した寺の初代となっており、小国大圓寺もそのような経緯で開山運びとなっている。月泉は晩年は44名の弟子を育て室町時代に入り応永7年(1400)に82歳で世を去った。その後大圓寺は二世の鉄叟弘通(てっそうこうつう)和尚が引き継ぎ室町期となり寺の背後に舘が築かれるなどして地方豪族により支援され、応永7年(1400)頃に寺院としての形態が充実したと考えられる。

 寺の発生や縁起を記した文書には高僧が立ち寄り竜神や山神を勧請したようなことが書かれるが、信仰媒体というものは人ありきで発生するもので、何もない所に旅の雲水や山伏が小屋を建てただけでは祈祷所であって寺として機能しない。寺が寺として機能するためには経済が必要不可欠で寺を支援する権力者の存在が重要だ。そのため室町時代や戦国時代は支援する豪族が滅びれば寺も同じように滅び廃寺となった。今も昔も寺や信仰は権力者と結びつき生きながらえるのである。

 小国地区は四方を山に囲まれた盆地で、山地でありながら広い耕作面積を持ち豊富な河川や沢では古い時代から産金があったとされる。月泉がこの地に寺を開き閉伊地方に曹洞宗を広める起点としたのも少なからず産金が関係したのではないかと考える。月泉は当初、上川井(鈴久名周辺)から高桧山を経て早池峰山を縦走する旧参拝道の入口にある桐内に草庵を結んだ。桐内は金内とも呼ばれる産金があった所で早池峰山を信仰していた月泉であったが早池峰山周辺の白見山、オーヅ岳、天狗山付近も産金の歴史があり、周辺には金堀沢などの名も残る。金は経済を担い、それを武力で守るための武器は鉄が使われる。鉄と金。これは権力者にとって充分な魅力であったと思われる。

 さて、今月の石碑をみて行こう。最初の石碑は繋地区国道340号線から西に5キロほど分け入った桐内集落にある月泉に関係した石碑だ。石碑は舗装が切れ最後の民家を過ぎ、山神の祠の裏手にある小高い丘にある。この辺りは地図上では盆地のようになっており通称名は寺平とされる。しかし周辺は林道はあるが植林地になっており平地のイメージはない。石碑がある場所も藪化しており庵寺があった面影はすでにない。碑は中央に○紋がありその中に小さく山寺とあり、続いて當寺開山佛覺古心月泉良印、左に何やら文字らしきものがあるが判読できない。碑に年代はなく資料によると大禅師と文字が続くはずだが落ち葉の堆積で埋もれ読み取れない。月泉が己の名を大禅師と書き込むはずはなく彫りの状態から見ても江戸末から明治にこの地に月泉が庵寺を建てたことを伝え残すため建てたものだろう。

 次の石碑は前述の石碑と並んでいるもので、やはり中央に○紋に山寺と刻まれ、白水水と文字がある。これはおそらく「泉水」と刻まれたもので右には川の流れと思われる意匠の不思議な模様がある。前述の石碑にある○紋の意匠が同じなのでこの二体は同じ時代に同じ人物によって建てられたものだろう。

 次の石碑はこれら庵寺に関係した石碑群の端にあるもので、中央に馬頭観音、右に昭和三年、左に三月廿三日、側面に石切、桐内、伊□とある。これは桐内で馬を飼育していた人が馬の死後周辺に馬を埋め供養のために建立したものだろう。

 最後の石碑は江繋の神楽地区から薬師川対岸を走る高桧山林道沿いにある鉄胎の岩屋にある月泉の碑だ。中央に月泉大和尚、右に明治十八年酉功徳、左に発願施主、阿部萬十郎外、発起人五人とある。大圓寺を開いた月泉は正法寺からの月詣りで早池峰山を訪れるとこの岩屋に籠もり冥想したと伝えられている。場所はタイマグラキャンプ場へ向かう道なりの薬師川にかかる大きなダムの対岸だ。詳しくは先月号特集を参照。

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