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2009/07 こちらジェッター流星号応答せよ、よす、行こう!!

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 僕が少年だった頃、スーパージェッターというテレビアニメが流行って少年たちは♪マッハ15のスピードだ、ジェッタージェッター、スーパージェッター我らがスーパージェッター…と歌っては、スーパージェッターごっこに興じた。そんな遠い昔のごく普通の昼下がり、近所の「オドゴワラス/男の子」らが数人でスーパージェッターごっこをするというので僕も「カデデ/加えて」もらうことにした。ジェッターは時空を超えて悪事を重ねる悪人「ジャガー」を追って未来から現代にきたタイムパトロールの隊員だ。そして人工知能が搭載された乗り物流星号に乗ってジャガーと闘うのであった。

 少年たちのジェッターごっこは誰かが正義の味方ジェッター役で、あとは「イッパヒトカラゲ/残りはひとまとめ」で悪役とその手下だ。ジェッター役はいつもガキ大将の子がやって僕はいつも手下役だから面白くもないのだが、少年心理からすると仲間はずれにされるよりはいいわけで仕方なく悪役やその子分に甘んじるのであった。ジェッター役の子を追って「アウェーコ/路地・隙間」を走り、「ヒトガエー/他人の家」の庭を横切り、適当な広場で乱闘の「マネコ/真似」をしてジェッターが勝って終わるのがパターンだった。

 さて、その日ジェッター役は僕より1コ年上の○くんだった。彼はグリーンの水鉄砲を構えジェッター特有の腕時計に語るようなポーズで「流星号、流星号、こちらジェッター」と語り流星号に乗るような仕草で「ヨス、イコウ!/よし行こう」と言うのだった。それを聞いて誰かが言った「ヨスデナクテ、ヨシダーベーガ/ヨスではなくヨシだろ」。すると○くんは「ヨスデモイイベーガー/ヨスでもいいだろが」と返答した。それを見ていた全員が「ヘンダー、ジェッターハ、ヨスッテサベンネーガヤー/変だよジェッターはヨスとは言わないぞ」とブーイングした。すると「ソンダラ、イイガヤー/そんならそれでいいよ」と○くんは赤面して「コツケデ/へそを曲げて」家に帰ってしまたのだった。○くんは以前捨ててあった大きな段ボールを拾ってきてみんなで汽車ごっこをした時も、山田線を走っているジーゼルカー(客車)の汽笛の音を口で表現する時「ム~ン~」と言ってみんなに「プ~ン~」「ダーベーガ/だろう」と笑われその時も孤立し「コツケデ」家に帰った前歴があった。そんなたわいもない少年時代の思い出だが、今回は多目的宮古弁の「ヨス」について考えてみようと思う。

 宮古弁で使う「ヨス」は前段のジェッターごっこでも使われる「良し」の意味を持つもので「準備良し」「準備OK」のよな含みで使われる「ヨス」がある。また「ヨスヨス/よしよし」と重複させて子供を抱いて落ち着かせる時の呼びかけだったり、言うことをきいた動物を褒めたりする時に語りかけたりもする。その他、相手に対して自分を奮い立たせるため歯を食いしばるときも宮古人は「ヨース/よーし」と言うし、事がうまく運びこちらの予定通りに物事が進行しているときも「ヨース/よーし」と胸をなで下ろす。このように宮古弁では大概ヨシは「ヨス」に転訛するためヨシの付く名字のヨシダさんは「ヨスダサン」ヨシオさんは「ヨスオサン」となる。従って歌手の吉幾三も「ヨスイクゾー」となり芸名の狙い通り「ヨス」が北東北全域で日常的に使われる言葉であることがわかる。

 そんな「ヨス」だが宮古弁のなかで最も使われ、しかも意味が幅広くて宮古弁特有のニュアンスをもつものに「ヨスハァ(ッ)」がある。「ヨスハァ」は「ヨス(確認)」と「ハァ(落胆・あきらめ)」に分割され「あーあー、やってしまった」のような意味で用いられる。これに確認を確実にするため「ア(発見)」を加え「ア、ヨスハァ」としたり、落胆やあきらめを強調するため「ツァ、ヨスハァ」と変化させる場合もある。  使いどころのツボは、語り手がまじめな話をして周りを感心させ、さらにその話の印象を強めるため笑い話や下ネタ、艶話、ダジャレ、たとえ話、失敗談など加えてくるような展開の時に「ヨスハァ」と合いの手のように入れるのが理想的だ。これにより語り手はこちらがある程度の冗談や下ネタ系の例え話にも対応することを判ってくれる。従って「ヨスハァ」とは宮古弁の会話を進める理解度レベルを計るバロメーターのようなものであり宮古弁会話のやりとりには欠かせない合いの手なのである。  「ヨスハァ」のバリエーションは「ア、」とか「ツァ、」を加える他、「ヨスハァ」の後に「ヤッテダー」と付け加えることで「あーあー、やってしまった」という軽いお約束的落胆と安心から、「あーあ、またやりやがったな」的な失態やこれからの失敗を見透かすような表現になる。「ヤッテダー」は過去完了進行形のような言い回しで単独で使用されるときは往々にして、ある程度予期はしていたがやはり、やりやがったか…のような進行中の落胆に使われることが多い。とにかく「ヤッテダー」は事件が起こることは予測できたにもかかわらず事件が起きていて、時間的に取り返しがつかないような状態になっていることが多い。

 最後に「ヨスト」についてだ。「ヨスト」は「これでヨシと」の「ヨシと」が訛ったもので、自己確認動作や点検動作で自然と口に出てしまう言葉だ。荷台に満載した荷物をロープで「ユッキッテ/結んで」そのたわみや固定具合を確認しながら誰に話すわけでもなく宮古人は「コレデヨスト」と言ってしまうものだ。また「ヨースト」と延ばしを入れることで、ある事象を仕方なく「ヨシ」として受け入れるがこちら側もある程度の反撃の心づもりがあるような場合、敵(相手)を威嚇するように「ヨースト」と口にすることもあるようだ。


付録・懐かしい宮古風俗辞典

【ひけーる】

まだ一人でトイレで用を足せない幼児を大人が抱き、小用などの手助けをすること。控えると書く

 最近は紙おむつが主流で子育てにオシメを使うことはない。だが昔は紙おむつなどなく、洗濯して何度も使う布のオシメが主流だったから、早めに子供のオシメが取れるということはお母さんの手間がぐんと減ることになり大いに歓迎されたものだ。  そんな古き良き時代、子供がおしっこをしたい仕草をしたら外へ連れて出し膝の裏から両腕で抱えお尻を突き出した格好で小用をさせる光景がよくあった。これは仮に子供一人でトイレへ行けてもくみ取り式の便そうに落ちたりしないよう、大人が付き添ったもので子供を抱いて「しーしーしー…」とおしっこの擬音でおしっこを誘った。宮古ではこれを「ヒケール」「ヒケーデケル」と言う。これは小用する子供の後ろに「控える」と言う意味で、大切な人物の後ろに控えるというような意味なのかも知れない。最後に子供のお尻に「ダラメーダ/濡れた」おしっこを「ホーロッテ/振って」あげるのも忘れられない。

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