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2009/04 人生の半分は睡眠時間。宮古弁で寝よう

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 春眠暁を覚えず。と言うが、暖冬で寒さも「ケッポレガナガッタ/たいしたことなかった」とは言えなんとか今年も冬を過ごしてポカポカ陽気の春が来れば誰だって眠い。水道だってもう「オドス/下げる・不凍栓を閉める」ことはないから就寝前と朝起きてからの仕事もひとつ減った。それぶん「チョコット/少し」でも「ネッテー/寝ていたい」から、ずれた布団をかけ直し寝返りをうってひと眠り…。と、思ったらもう7時過ぎ、これじゃ「マンマ/この場合、朝飯」食ってる暇もない。とりあえず顔洗って「モヨッテ/着替えして」ばたばたと出勤というのがよくあるパターン。おまけにこんな日に限って道路は渋滞、バスは混む。会社では上司に「ツラツケェ/嫌みな顔」されながら今日もやっぱり遅刻とあいなった。

 ところで人の人生の半分は睡眠に費やすというけれど、さすがに一日24時間の半分の12時間を睡眠に充てているという人は少ないだろう。睡眠時間は人にもよるけれど健康な人なら6~7時間もあれば充分だとされるが、睡眠は単にその時間だけでなくいかに快眠を得ているかも重要だ。昔から「寝る子は育つ」と言うがそれは「アガンボ/赤ちゃん」のことであり、いい大人が休みだからといって二度寝、三度寝ばかりでは「セッコギモノ/怠け者」になる。要は人生、何事も「切り替え」が重要なわけでワンパターンと言われようと毎日を規則正しく暮らすことは悪いことではない。とは言え「オジューハン/お昼」をいただいて午後の仕事が始まるまでの待ち時間は満腹感も手伝って「ネプテー/眠い」。できたら職場の椅子でうとうとするのではなく畳の部屋で「ナガグナッテ/横になって」ほわほわの毛布などをかけて「ヒトネイリ/一眠り」したいと思うのは僕だけか。

 さて、宮古弁では居眠りのことを「ネプカゲ」または「ネプガゲーコグ/居眠りする」と言う。これは居眠りの際に首の筋肉が弛緩して頭の重さのため何度もカクッと頭が下がりその度に目が覚め、また居眠りする一連の動作の連続が櫓で船を漕ぐテンポと似ているためで、居眠りしている様を「フネーゴグ」と見立てている。加えて「ネプ」は「眠る」「カケ」は「フネーゴグ」という別称から「帆かけ船」のように「ネプカゲブネヲコグ」という意味にからきているのだろう。ちなみに、居眠りから覚めたはいいが起きがけで目の焦点が合っていないような目つきは「ネゾペマナグ」と言う。

 よく使われる「寝る」関係の宮古弁には次のようなバリエーションがある。まず「ネビス/寝よう」だ。「ネビス」の他に「ネベス」「ネベッサ」「ネッピッサ」などがあるがどれも「~スルベシ」で使われる「ベシ」という古典的日本語の助詞が変化したのもだ。一般的な使用例だと「ハージュニズスギダッケーニ、ネビス/もう12時過ぎたから寝るべし」などがある。ちなみに「べし」は「べから」「べく」「べかり」など多彩にあり、推量の助動詞、動詞およびそれと同じ活用型の助動詞の終止形に接続する。「関係者以外入るべからず」「恐るべき選手」…のように活用される。宮古弁ではこれらが「~ベッサ」「~ペッサ」「~ぺー」「~べー」のようになって使われる。例えば「オランダズダゲデモイグベッサ/オレたちだけでも行こうよ」「ナードガヤッッテミペッサ/どうにかやってみようよ」などがある。

 寝るの「ね」という言葉に引っかけて寝ることを「ネーズサイグ/根市へ行く」という場合もある。その昔、町場とされた宮古市街地から閉伊川をさかのぼって花輪橋を越えた付近にある根市村はそれはそれは遠いイメージで思い浮かべるとうとうとしたのだろうか。ちなみに「ね」の付く地区名は「根城」「根井沢」などがあるが宮古から見て太陽が沈む西、すなわち西方浄土のイメージは根市なのであろう。  慣れない体勢で熟睡すると翌朝起きてから首や肩に凝りが残ることがある。これを宮古では「ネッツゲー/寝ちがい」と呼ぶ。首の筋が固まって一定方向の一定角度しか曲がらなくなり痛みが伴うもので、子供を抱いて寝たり、いつも煎餅布団で寝ているのにガラにもなく高級ホテルなどに泊まったりすると発症する。

 寝ると言えば昔から「ヒチョーススルワラスハ、ネソンベンヲ、ホラグ/火をいじって遊ぶ子供は寝小便をする」という諺があって、就寝前に囲炉裏や薪ストーブの「オギリ/おき火」などを「ヒパス/火箸」や「デレッキ/火はさみ」で「チョースマース/執拗にいじり回す」子は火の夢を見て興奮するというものだ。また、火事の夢を見ると「ネソンベン/おねしょ」するというジンクスもある。これは夢の中の火事現場で懸命に消火活動をして無事鎮火すると、ずぶ濡れになった自分に気づいて目が覚めると、下半身が水浸しになっているというものだ。よくある話だと、燃える火にホースを向けたが一行に水が出ない「オーイナニスッタヤー/おい何をしてるんだ」と「キエー/気合い」をかけたらやっと出た。あれ、勢いが足りないと思ったら、布団が「ハッコグ/冷たく」なって目が覚めるというものだ。

 通常寝る時はパジャマなどの「ネマギ/寝間着」に着替えるが、希に服を全部脱いで真っ裸で寝る人がいる。これを「ハダガネンネ/裸寝んね」というが、なんだかブラブラ、タプタプして落ち着きがないような感じだ。その昔、布団も枚数が少なく寒いから夫婦で「ハダガネンネ」したというが、貧乏人の子だくさんという諺も本来予定がなくても毎夜裸で寝ていればアクシデントも起こるわけで、このあたりも意味に含まれているかも知れないと思うのは要らぬお節介であろうか。


付録・懐かしい宮古風俗辞典

【ちょっぺっこ】

秘密を守れず、すぐに言いふらしてしまう人。「チョッペ」と短縮する場合もある。

 「ダレサモサベンナヨ/だれにも言うなよ」と前もって口止めされても、誰かに教えたくてたまらない。こんな面白い秘密の情報を聞かされて誰にも言うななんて…と「チョッペッコ」は情報を漏洩する。本来なら情報の重要性を考慮して心の中に仕舞っておくべきなのだが、おしゃべりで情報通を気取る「チョッペッコ」は自慢のため、つい口が滑ってしまうのであった。逆に「チョッペッコ」の言わずにいられない性格を見越して、わざと情報を吹き込み「チョッペッコ」をうまく利用する手もある。また「チョッペッコ」は情報漏洩ではなく集団の中においてルール違反の摘発をする場合もある。例えば学校に持ってきてはいけないおもちゃで休み時間に遊んでいることや、金額が決まっている遠足のおやつに内緒で持ってきたチョコのことを先生に報告したりする子も「チョッペッコ」と呼ばれる。本来なら正しい人の道を貫き皆、平等であって当然じゃないか!と不正行為を先生に報告するのであるが、なぜか「チョッペッコ」はクラスで浮いてしまうのであった。

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