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2009/03 冬の味覚、毛ガニの思い出

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 今年は「サゲ/鮭」が「サッパリデ/さっぱり捕れない・不漁」でいつもなら夕食のおかずにお父さんが「マダ、サゲキレガーヨ/また鮭かよ・キレは卑称」と「グザメグ/口ごもった文句」を言うこともなく、年末に買って「ノキハ/軒」に干した「スオビギ/新巻鮭」を「タボスナンデ/大事に少しずつ」食べていることだろう。そんな例年にない珍しい冬だが今年は「ガニ/毛ガニ」が豊漁だという。観光協会や宮古市ではそんな「ガニ」のイベント「毛ガニまつり」で観光的にも手薄なこの時期、県外からも観光客を呼び込もうと「ムターカゲデ/オーバーワークの覚悟で」本気になっているようだ。

 さて宮古では「ガニ」と言えば「毛ガニ」だ。近年になり「ズワイ」だ「タラバ」だと言うが、基本的には宮古では捕れないから、宮古人は「ガニ」と言えば「毛ガニ」しか頭に浮かばない。たまに夏頃に底引き網にかかる「ズワイガニ」のような脚が細い「ガニ」や、「ワタリガニ」なども水揚げされるがこれらの「ガニ」は時期的に身も痩せており、ほとんどの宮古人は「ヘモヒッカゲネー/最低限の屁もしない・相手にしない」。おいしいから食べてみたら?とすすめると「セセペクテ、ヤンター/手がかかっていやだ」と「ツラツケー/不快感を顔に出す」する。

 「ガニ」と言えば今も昔もこれを食べると皆、殻を割ったり身を剥いたりで忙しくなってしまい無言になってしまう。だから歓送迎会などの料理に「ガニ」がでると参加者は「ガニムギ/カニ剥き」に熱中してしまい宴会はちっとも盛り上がらない。まっ、さっさと「インナグナレバイイ/転勤してしまえ」と思っていても口に出せないような人の送別会なら、話もしたくないから「ガニ」づくしの料理は最適だろう。

 僕にとって「ガニ」の最大の思い出は、映画館で食った「ガニ」だ。あれは僕が小学校3年生の頃だ。従兄弟連中と今は無き愛宕の第一常磐座に行くことになった。そこで誰かが映画館で腹が減るから「ガニ」を持って行こうと提案した。おお、それはいい考えだと大人たちもみな賛成だ。そんな訳で「ユデガゲ/茹でたて」の「ガニ」を一人一個持って「スンブン/新聞紙」をたんまり持って映画鑑賞となった。映画館に入ると椅子席では「クイグルスー/食べにくい」というので二階の座敷へ移動。そこで各自「スンブン」を広げて「バリッ」「ゴリッ」と殻を割り、「ミッコ/身」を「チュバ、チュバ」と「サズッタ/しゃぶった」のであった。映画のスクリーンから反射する明かりで5~6人の大人子供が「ガニ」に「カブリヅーデ/かぶりついて」いる姿、音声に混じって館内に響く殻を割る音はさぞ異様だったろう。おまけに汚れた手は映画館備え付けの「ザブドン/ざぶとん」に「ヌッタグッテ/乱暴に塗って」すまし顔だ。今考えるとどっちが汚いやら…。ましてや「ガニ」のニオイも強烈だから換気の悪い館内は僕らが帰った後もしばらく「ガニ」臭かったろう。ちなみに見た映画は坂本九主演の映画だったと記憶している。

 余談だが当時の映画館は何を食べても制限はなかった。さすがにご飯を炊いたりスキヤキとか焼き魚を食う人はいなかったが、二階席の「ヒバヅ/火鉢」でスルメや「モーヅ/餅」をあぶったり、出前で鍋焼き(うどん)を取ったりして映画を見ながら食べるのは割と普通だった。当時、第一常磐座の近くには味之食堂、直助屋があって、映画館から出前を頼んだり、入る前に頼んで館内で受け取ったりしていた。僕も第一常磐座で味之食堂の中華そばを食べた経験がある。きっと市内にあったその他の映画館でも同じようにお客が映画館の赤電話から食堂に出前を頼んだりしていたと思う。出前の人もモギリ(券売所)は顔パスで中へ入ると暗幕を上げて「○○食堂でーす」と声をかけるわけで、頼んだ客は「オー、コッツコッツ/おお、こっちこっち」と手を上げていた。また、館内は禁煙だったが、お構いなしでタバコを吹かしながら誰も注意することもなかった。近年の映画館は飲食制限もあり何かと肩がこるが、昭和40年代の映画館はいわば無法地帯ではあったが「ナリナリニ/それなりに」楽しめた。

 さて「ガニ」に話を戻そう。僕は山ノ手の団地住まい(小山田)だったが「ガニ」の時期になると近所の魚屋では大量に「ガニ」を茹でて売っていた。魚屋では外に練炭が燃えた「スズリン/七輪」を置いてそこへ「ガンガラガン/一斗缶」を載せ水をはると海水ぐらい「ガッツリ/がっちり」塩をして「ノツノツド/沸騰した様子」沸いた湯へ「ガニ」を投入していた。「ガニ」はすぐに茹で上がり茹でたてが売られるのだが、茹でる時に脚などが「モゲダリ/取れたり」してゆで汁に残ることがある。気のいい魚屋のオヤジがそんな残った脚をぶっきらぼうに「ホラ、ケー/ほら食え」とポカンと「ハンクヅーアゲダ/半分口を開けた」僕にくれたりした。

 そんな「ガニ」が食卓に載ることはめったにないのだが、たまに知り合いから脚が「モゲデ」見た目が悪く売り物にならないからと生の「ガニ」が回ってくることがあった。冷蔵庫も「ツッツァケー/小型」なもので「ノッコラ/多量に」貰っても保存できないから、大鍋で茹でて家族全員で「ムスムスド/無言で」食いまくると、「ガニ」のゆで汁で汚れた手で触った身体が「カイー/痒い」ぐなった。そして銭湯から帰って両手を見ると皮がささくれ紙ヤスリのようになっているのだった。


付録・懐かしい宮古風俗辞典

【たますぽーろぎ】

びっくりして心臓が脈打ったため、心臓にいつもより大きな負担がかかり寿命の成分がこぼれ落ちたという意味。

 不意な脅かしや肉体的及び精神的衝撃により、これまで安定して脈を打っていた心臓が不規則な心拍になり、同時にめまいや胸部圧迫感などで不快な状態になること。「タマス」とは「魂」のことで、同時に心臓を意味する。「ホーロギ」は「ほうろく」で皿や盆などに豆類を載せて揺すりながら選別する行為、またはそれに使う道具を指す。また、ザルのような形状で揺すりながらゴミや「スーナ/結実していない実」を取り除いたりする行為を言い当てている。したがってびっくりして俗に心臓にあるという魂の成分が揺すられてこぼれ落ち寿命が縮むという意味。事故の報告や訃報、火事の場所を効いて自分の身内や自分の家でなかった時に、安堵すると同時に「アリ、ヤッターイェィ、タマスポーロギスタガ/あらやだわ、寿命が縮むかと思った」などと例えたりする。

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