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2007/12 某薬局に設置されていた「高度宮古弁記入所」より~その1~

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 先月は久々に宮古弁関係の依頼で各所からお呼びがかかって月半ばに千徳小学校と社会経験者大学で宮古弁の「コーノーキッテ/効能を語って」例によってギターなど弾いてオリジナルで作った宮古弁の「ウダコ/歌」でやんやの拍手を戴いた。千徳小学校では生徒たちの研究のテーマが宮古弁に翻訳した昔話、宮古弁紙芝居、宮古弁の創作物語、すごろくなどでどれも高度な文章力を必要とするものばかり。けれどまぁそんな勉強の中に宮古弁を取り入れたいと思う気持ちが大切なわけで、出来不出来はともかくこれこそが地域学習たる部分だと思う。社会経験者大学の方は僕より人生の大先輩の「ズーヤンバーヤン/じいさんばあさん」たち約80名を前に宮古弁で説明する宮古の歳時記などと立派な銘をうっての講義となり時間も約2時間と長丁場。尿モレパットなどの便利な品もあるようですが「スーコ/小便」の人は「コドワリナス/宣言などせず」にトイレに行ってください。「ネマリスーコ/座り小便」のないように…。とお決まりの前置きをして年末から正月、春夏秋冬の歳時記について説明した。さて、そんな11月の宮古弁イベントだったが、その中で最もユニークかつ励ましになったのが、職場のみんなで書きためた宮古弁を編集の足しにしてくださいと申し出てきた舘合町の某薬局の方々だ。この薬局では店長が根っからの宮古人で宮古弁マニア。そんな職場に集まった従業員の方々も宮古弁愛好者。おなじ宮古市でも生まれ育った地域によって宮古弁にも微妙な変化があるらしい。そんな宮古弁の中から難解と思われる言葉を店長が設置した「高度宮古弁記入所」という紙に書き溜めたわけで、これを資料にしてほしいというものだった。そこで今月と来月の2回にわたって、本誌愛読者・宮古弁大好き薬局で採取されたという高度宮古弁の中から宮古弁を解説してゆこう。

カネル

 「カネル」と言っても「大は小を兼ねる」というような意味ではない。宮古弁で言う「カネル」は長時間同じ姿勢で仕事をしている時に「コスガカネル/腰が疲れる」という風に使われるが、この用例だと「カネル」が「疲れる」であるようには聞こえない。そこで待ち人がなかなか来ない時に使われる「マツカネル/待ちかねる」「マツクタビレル/待ちくたびれる・疲れる」に変換すると「カネル」が「兼ねる」ではなく「疲れる・くたびれる」という意味へシフトしていることがわかる。

クワル

 「クワル」は塞がるを意味する。「クパル」とも言う。ちなみに物を運ぶことも「クパル/配る」という。この辺が宮古弁の「ザッツェー/難しい」ところだ。また「クペル」、とも言い「クト/かまど」やストーブに薪を入れることも「クペル」と言う。これは自然に金属の腐食や水あかなどで管などが詰まるような状態を「クワル」、人為的に管やパイプに「センメ/栓」をするような行為を「クペル」、傷口などが治癒して塞がる状態などを「クパル」という風に使い分けるといいだろう。

ケガズ

 「ケ」は「食」を意味し「ケー/食べろ」とか「クー/食べる」もこれに準ずる。「ケガズ」はこれが渇望すること。すなわち「食渇」という意味だ。冷害や日照りで作物が結実しない状態で秋になればそれこそ死活問題だ。今の世の中も同じでモノは豊富で便利なのだが「ゼニ」がなければその恩恵に浴することはできず格差社会の中「デフレ・ケカズ」で人が死んで行く。クマサカさんレベルじゃどーにもならないけど、僕たちはこんな21世紀を望んではいなかったはずだ。

ソゴガラ

 難解な宮古弁のひとつ。おそらく今では一部の地域でしか使われていないだろう。「ソゴガラ」を漢字にすると「底柄」だ。下になっている着物の柄を意味し「コレデーバ、ソゴガラダーモン/これだと下地と似たような柄(色)だもの」という用法になる。くれぐれも「その場所から」という平坦な宮古弁でないところが難度が高い所以だ。

ヤメル

 これは数ヶ月前にも書いたが「病む・痛む」という意味を表す。「アダマヤミ/頭痛」「ムスパヤミ/歯痛」「クセヤミ/つわり」という風に使われる。ちなみに「ムスパヤミド、ヒビキラスさば、ミメートハコネー/虫歯でどんなに痛がっても、どんなにアカギレになってもお見舞いの人はこない」という非情な宮古弁の諺がある。そのくらい我慢して仕事をしろ!という先人のキツ~イお達しだ。

ツォイモッツォー

 これまた難解な宮古弁だ。意味は「人の世話をよくする人」という意味だというが、30年近く宮古弁の原稿を書いてきた僕も初耳の単語であり、今後の研究が待たれる宮古弁のひとつだ。

キムギズンゾー

 語呂合わせで改造された言葉でこの原型は「カノギズンゾー/桑の木地蔵」だ。桑はオカイコの食草でありこの枝で作る信仰媒体はもちろんオシラサマ(オシラ仏)であり「キムギズンゾー」もオシラサマを模倣した意味になる。なにせオシラサマという神様は「ゾセー/雑に」に扱うとすぐ祟る。供え物が悪いとすぐ祟る。ご縁日を変えるとすぐ祟る。とにかくささいなことで祟っては信仰している側に迷惑をかける。これが転じてあれこれ手を焼いて世話をしてあげたのにそれが悪いとすぐ「コツケル/へそを曲げる」ような気まぐれで神経質な人に対してオシラサマのように手に負えないという意味を込めて「キムギズンゾー」と言葉が改造されたものだ。

スグダマル

 「静かにして黙る」が変化したのか?それとも「すぐ黙る」か?どちらにしても、今まではしゃいで「イキポイデ/勢いよく吠えて」いたのに、急に静かになって正座でもして待っているから、かえって不気味で気持ち悪いというような雰囲気が漂う。ちなみに濁点をとって「スクタマル」という使い方もあって、こっちだと「落ち着け静かにしろ」というう命令形の「スクトセー」の「スク」が連動していることがわかる。

ズラットステ

 愛想のないことを意味する。山田方面の古い言葉で「ズラゴ」というのがあってこれが愛想のない女を意味する。「ズラ」はまさしく無愛想を指していて「ズラットステ」の他、変化系の「ズヘットステ」も他人との接触が不得手で失礼をしてしまう人たちのことを表現している。「ズラ…」の要素は挨拶しない、返事しない、謝らない、仕草に敵意が見え見えなどが挙げられ、これって最近のお子様たちのことじゃん。


懐かしい宮古風俗辞典

【あつこーみどでんせー】

 味見しませんか?の意味。露店や土間売りなどで季節の野菜や加工品を売るおばあさんたちがタッパーなどに試食品を入れ通過する人たちにセールスする代表的な売り言葉のひとつ。

 最近はどこへ行っても道の駅だの、生産組合で共同経営している販売施設がある。そのためか生産者がそこに野菜や加工品などを置いて無人販売するシステムが主流になっていて、農家や漁家の「オッパヤン/おばちゃんたち」と会話したり値切り交渉をしたりすることはなくなった。施設ではまるでスーパーのように備え付けのカゴに品物を入れてレジへ向かい精算する。確かに面倒がなくていいのだがはたしてこれが正しい産直販売だろうか?と疑問点も浮かぶ。その点宮古魚菜市場の名物コーナー土間売りは違う。並ぶ品物には生産者の顔がついているのだ。多少は「ガンソグガワリー/顔、姿形が悪い」「デーゴ/大根」でもそこへ座っている人が丹誠込めて作った「デーゴ」なわけで、なんなら形が悪いから少しおまけしろと交渉もできる。売る人が自分の商品に自信があってちゃんと管理し、かつ道行く人に宮古弁でセールスするのだから人件費はかかるけれど物は売れる。品物を袋詰めしてバーコードで管理するシステムは昔の対面売りから比べれば便利だろう。しかしそれは売る側の利便性であり消費者にとっての恩恵はあまりない。産直ぐらい対面で交渉しながらおいしい地物野菜を買いたいものだ。「コレンス、エーナサン、アツコーミドデンセー、マルッテアメーガス/これこれそこゆく好青年、味見してみませんか、まるでとろけるように甘いですよ」宮古のマーケティングの基本はコレでしょう。

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