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閉伊川太郎

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川の怪異と閉伊川太郎伝説

宮古地方に伝わる数ある伝説の中には水に関係したものが多い。水は川、海、池を通して生活と農業に欠かせないライフラインであるとともに、その中には特殊な薬効のある鉱泉や湧水、津波や洪水などの災害に関する水も含まれる。これらは自然災害を神や異人の法力や祟りなどに転訛し、その自然の驚異を後世に伝えようとしたものであろう。
洪水の象徴として挙げられるのは閉伊川に棲むとされる巨大な龍である「閉伊川太郎」であろう。口伝えの伝説によると、閉伊川太郎は大蛇のような龍で旧6月15日に川を上り、8月15日に川を下るという。区界まで上るとも達曽部まで上るとも言われている。閉伊川太郎が上る日は七所明神の縁日でこの日は必ず川が荒れるという。主である閉伊川太郎の上る姿を目撃すると目が潰れるというので、昔はその日は誰も川に行かなかったという。
この口伝は新里刈屋地区の老人が語ったものだが、伝説の筋道を考えてみると、川を上る日とされる旧6月15日は重茂の黒崎神社の縁日の日で(現在は土日に移行されている)それに合わせて閉伊七明神の祭りがあった。明神は人が死んで神として崇められた神とされ、七明神に奉られているのはその昔、閉伊地方を統治していた閉伊頼基の家臣であり頼基の死後、後を追って殉職した閉伊七将だとされる。このことから閉伊川太郎とは川に水葬された閉伊頼基のことで、これが誇張され、遺体を川に流したところ、遺体は巨大な龍に姿が変わったと伝承されたものだろう。
また、龍は長い間川の淵などに棲んでいた野鯉などが変化したものだという説もあり、洪水に濁流に乗って龍となった巨大な鯉が海へと下るという。龍の鼻先には長い白髭をたくわえた仙人が乗っており、これが洪水の白髭伝説となり洪水を防ぐとされる白髭神社建立などにつながっている。いずれにせよ6月から7月は長雨が続き川が危険な状態になっていることから、人々を戒めるために作られた伝説という考え方が順当だが、別の方向から推測すると6月のアユ漁など場所取りを牽制するために語られた川漁に関係した伝説なのかも知れない。

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